2000

#G010・ガンキャノン203

 それはまさに悪夢だった。
 一筋の光が、一瞬のうちに数十もの艦艇を虚空へと葬り去った。電離して拡散した荷電粒子が、機体を叩いてコクピット内にこだました。それはまるで、死者の咆哮のようであった。
 ウォレス・デイリーは、操縦桿を握ったまま何度もかぶりを振った。未だ覚めやらぬ悪夢から、いつになれば解き放たれるのだろうか。
『た、大尉殿、あ、あれは一体……』
 ウォレスには、部下の質問に答えるだけの余裕がなかった。
「……終わらせるしかないんだ、この戦争を」
 全モビルスーツ隊に即時帰還命令が出され、ウォレスは機体を回頭させた。
「再発射の兆候はないのだな!」
 ルザル艦長ニコラス・K・オブライエンは、キャプテンシートから半ば腰を浮かせて通信士を怒鳴りつけた。
「ペガサス1にその場を動くなと伝えろ! 主力艦隊群の様子はどうか!」
『だ、第一、第三艦隊はほぼ全滅、第二艦隊も十隻以上が消滅しました』
「……残存艦艇、集結を急がせろ!」
 艦長は、帽子を脱いで膝許に置くと、キャプテンシートに深く身体を沈めた。
「ホワイトベースが生き残っているだけでもよしとせねば……」
 第一機動艦隊群旗艦・ルザルは、攻撃を免れた残存艦艇をまとめるため、第十三独立艦隊のホワイトベースを目印にして、艦隊の再編成を行なった。
「レ、レビル艦隊が?」
 メカマンは、もうかぶりを振る以外何も答えなかった。ソロモンで急遽改造されたモビルスーツデッキは、入場制限が必要なほど狭かった。メカマンに整備指示を出すと、ウォレスはブリッジに上がった。
「ニコ、一体何が起こったんだ」
 体裁を気にするほど、ウォレスはまだ落ち着きを取り戻せずにいた。艦長は、腕組みをして立ち尽くしたまま、外の様子を眺めていた。
「作戦は差し戻された。第二戦闘配置で待機しろ」
「何が起こったんだと訊いている!」
「落ち着け、ウォリー。……お前がそんなでどうする」
 ウォレスは、握った拳をゆっくりと開いた。
「……すまん、艦長」
「それでいい」
 ウォレスは、艦長の隣に並ぶとゆっくりと息を吐いた。
「……まだ、あの悪夢が覚めないんだ。あの……、二本足の化け物が……」
「気持ちはわかるが、大尉、もっといい方向に物事を考えろ。確かにあの戦闘でお前の艦は沈められたが、あの戦闘がなければ、こうしてまたお前と共に戦うこともなかった」
「それはそうだが、……艦長、やはり俺は」
「なあ、ウォリー。あれを見てみろよ」
 艦長は、左下の空域を顎で指した。そこには、白い艦船があった。
「信じられるか、あの船。乗組員が全員子供だってことが」
「ホワイトベースか……、まるで奇跡の船だな」
「それだよ。その奇跡に賭けてみようじゃないか、ウォリー」
 ウォレスは、艦長の横顔をまじまじと見た。
「連邦軍切っての戦略家が、そんなセリフを吐くとはな」
 艦長は、口許を綻せた。
「おかしいか?」
『艦長、暗号コード受信、ベータトワです』
「よろしい。開封認証キー、3C2892DF」
 艦長が振り向くと、もうウォレスの姿はブリッジになかった。

 明らかに、連邦軍は戦力不足であった。しかし、作戦の推移次第では、勝算もあった。誰もが、これで終わりにするんだという気持ちで、戦場へと赴いた。
「神に祈れとでも言うのか」
 密集隊形で突撃したルザル艦隊群は、敵要塞の集中砲火を突破しつつあった。
「ん、何だ?」
 大型のモビルスーツが、索敵モニターを横切った。次の瞬間、幾筋ものビームが、艦隊の方へ走った。
『所属艦艇認証コード喪失。リカバリーコードに更新します』
 システムの乾いた声が響く。それは、ルザルの撃沈を意味していた。
「くそったれが!」
 正面から突撃してきたザクは、キャノン砲の連射の前に砕け散った。
「祈る神などあるものかよ!」
 ウォレスは、覚めない悪夢を振り切るようにペダルを踏み付けた。
「ニコ、お前まで……」
 奇跡を信じようといったルザル艦長や他のクルーも、その奇跡を見ぬまま宇宙の塵となった。モビルスーツ隊も、要塞に上陸できぬままそのほとんどが撃墜された。
「あ、あれは……」
 その白い光跡は、火線ではなかった。まるで宇宙を舞うようにひらひらと揺れると、要塞の陰へ消えていった。
「あれが、ガンダムか……」
 年端もいかぬ少年少女達が、幾つもの戦火を潜り抜けて戦ってきた。あのガンダムのパイロットや、ホワイトベースのクルー達は、大人でさえ狂するようなこの世界で、ただ生き延びるために戦っている。
「……ニコ、お前の分まで、俺がその奇跡とやらを見届けてやるよ」
 ウォレスは、索敵モニターのレンジを最大にして、僚機の識別信号をスキャンした。
「いた、あそこだな」
 頭を撃ち抜いたゲルググに目もくれず、ウォレスは、真っすぐにその二つの点へ向かった。
「ホワイトベース、ガンキャノン108、及び109、聞こえるか! こちらはルザル203、ウォレス・デイリー大尉だ」
 ややあって、声高な応答がした。
『うひょー、ご同輩だぜ』
『よろしくお願いします、大尉殿』
 二機のガンキャノンは、ウォレスの前を軽快に飛び交った。
「ふふっ、ご同輩か……」
 ウォレスは、奇跡がやがて奇跡でなくなることを信じて、操縦桿を握った。
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あとがき

劇場版3では、WBに積まれたキャノンの他にもう一機、203とナンバリングされた機体が出てきます。たぶんこんな人が乗っているんだろうなと。
ティーンエイジャーばかり乗っている戦艦が、これだけの戦争を生き抜いているというのは、驚異なんでしょうね。

Posted by みかつう at 2005/06/21 (Tue) 22:59:16
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