2003

#G013・ソロモン05:39

「どこだって!?」
 ハワド・マシューズは、第3デッキから通じる整備格納庫へ降り立つと、コアブースターの機関系パーツを見遣った。
「こいつをデッキまで運んでくれ」
「どれですか?」
 担当のメカマンが怪訝そうに訊いた。
「エンジンブロック全部だ!」
 腹を立てている訳ではないが、オペレーションが始まってもう五時間経っているというのに、メカマンの口調があまりにのんびりしていたのだ。ハワドは、踵を返してから自省した。
 先刻、ハヤトが被弾して帰還した。損傷度はB。深刻ではないが、二時間以内の再出撃は不可能だった。キャノンの損傷度は知っているが、ハヤトの様子までは伝わってこなかった。怪我でもしているのだろうか。それとも……。
『スレッガー機、帰還します』
 デッキマネージャーの声が響いた。消化剤が霧状に一瞬だけ舞った。左翼エンジンは、冷却剤タンクの外装から大きく裂けていた。
「ドジ踏んじまったぜ、ハワド」
 にやついた顔で、スレッガーが降りてきた。
「フューエルチャージャーのラインがどっかで切れてやがる。メガ砲は問題ないみたいだが」
「左翼のエンジンブロックまるごと交換します」
「そうだな、そうしてくれ。あと、弾薬と燃料の補給も頼む」
 スレッガーは、少し疲れたような顔をしてハワドの肩を叩いた。
「十五分、待ってください」
 そう言ったハワドを、スレッガーは意外なほど厳しく見つめ返した。
「十分だ。俺も燃料を補給してくる」
 待機ボックスへ続くエアロックへ向かうスレッガーの後ろ姿を一瞥して、ハワドは檄を飛ばした。
「急げ!十分で仕上げてみせろ!」
 見慣れぬ白い影が視界をよぎった。ハワドは、反射的に目を向けた。
「ハワド、スレッガー中尉はどこですか?」
 ミライ・ヤシマの聡明な声がレシーバーに響いた。
「み、右の、待機ボックスのほうへ、行かれました」
「そう、ありがとう」
 ハワドは、ミライの後ろ姿を見なかった。見ている暇も、その意味を考えている余裕もなかった。

 コアブースターに限らず、全ての装備品に言えることだが、整備上の効率を第一に考えられた設計がなされている。加えて無重力世界はメカマンの作業を格段に能率よくさせてくれる。
「ラインテストはいい!論理チェックだけでいいんだ!」
 約束の時間が迫っている。スレッガー機が再発進して、まだ調子が悪いときは戻ってもらおう。エンジン交換を時間内に済ませることを最優先に、ハワドは作業を指揮した。
 一分だけ遅れて、スレッガーが戻ってきた。艦内放送は聞こえていたはずだが。
「待たせたな」
 スレッガーは、軽く手を挙げてコクピットへ消えた。
「デフレクター上げ!005発進用意!」
 スロットルを全開にして、スレッガー機は発進した。
「……ふう」
 ハワドは、自分が溜息をついたことに少し驚いた。まだオペレーションは継続中なのだ。気を抜くわけにはいかない。
「みんなご苦労、よくやってくれた」
 メカマン同士が、手を挙げて応えた。ハワドは、残りの備品を確かめようと自分のデスクに向かった。
『……スレッガーだ……えるか、ハワド……』
 個人通話のチャンネルで、レシーバーからスレッガーの通信が聞こえてきた。
『……調子いいぜ、……りがとよ……』
 その言葉に、ハワドは嬉々として答えた。
「帰ってきてくださいよ、スレッガー中尉」
 返事はなかったが、ハワドは嬉しかった。デスクについて、整備レポートを書き記した。
<ブースター005、左翼エンジンブロック交換。05:39>
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